In the Field

田中の体験や人と話したことを共有します。でも実は、自分のメモのためだったりします。

5分でわかる電力自由化のお話です。

www3.nhk.or.jp

 

こんなニュースがあったので、今回は電力自由化について取り上げてみます。

といっても、どこの電力が安いとか、こんなセットで買うとお得とかではなく、電気事業(ビジネス)寄りの話ですので悪しからず。

 

電力自由化って?

語り尽くされた話ですが、私なりに(世界一?)分かりやすくご説明します。

電力自由化というのは電気事業の規制を緩和することですので、従来の規制にどのようなものがあるかわかれば、8割方は理解したといえます。

 

①料金規制

電力というのはエジソンが発明して以降、蒸気(熱)に代わる主たるエネルギー源として普及しました。

空気や水のようにならないものになったため、需要供給曲線を考えると、基本的には需要は縦線|(値段に関わらず一定の需要があるモノ)になります。

つまり、供給側の言い値が価格をほぼ決定づけることになります。

そして日本の電力会社が、各テリトリーで独占的に事業を行っているため、不当な価格設定をすることも理論上は可能です。

 

(日本では戦時前まで、複数の民間の電力会社が同じテリトリーで顧客の奪い合いをしていましたが、戦争への突入に伴い、国家総動員法のもとで電力会社は国営化されました。その後、戦争後に9電力+沖縄電力に分割されました。)

日本の電力会社 - Wikipedia

 

そのため規制下では、電力会社が料金を申請し、政府の諮問委員会によって審議、承認されています。

需要供給曲線で考えると、ほぼ縦線の需要曲線のどこかに点(●)を打つようなイメージですね。

この料金(円/kWh)は、全発電量の発電にかかった「正当」と認められる費用に基づいて決定されています。

 

これが電気事業の規制ですので、電力自由化では料金規制が行われなくなります。

(料金決定を市場に任せます)

以上が電力自由化の本質です。

 

②送電網の解放

しかし、単純に市場に料金決定を任せるといっても、電力会社が市場を独占する状態では、先のように言い値で決まってしまいます。

競争市場として成立するには、「参入者」を呼んで、供給曲線を点●から線/にする必要があります。

そこでポイントとなるのが、いままで参入の妨げとなっていた、送電網の独占状態を解くことです。

 

従来は、大手の電力会社以外が新たに電源を送電網を接続する場合に、電力会社は接続料を徴収していました。

参入を促すには、この接続料を下げ、かつだれでも公平に接続(発電事業への参入)を検討できるよう情報提供することが必要です。

この料金設定と情報提供を、電力会社でない機関が行うことで、送電網を解放します。

いわゆる発送電の分離です。

 

これにより参入者が検討を始めます。

参入者たちは発電した電力を、燃料費と運転費に応じ、ビジネスとしてペイするように値段付け(入札)をします。

その結果、電力会社が火力だろうと原子力だろうと一色たんに計算していた発電価格が、燃料種別に分けられることになります。

この、水力や原子力などの安い電気〜天然ガスや石油などの高い電気からなる仮想的な供給曲線を、メリットオーダーと呼びます。

 

メリットオーダー(/)と需要曲線(|) の交点が、電力料金になるのです。

このイメージは、東京電力の資料の「電力市場への影響(メリットオーダー効果)」が分かりやすいです。

 

③需給バランスの監視

さて、複数の電力供給者が独自のビジネスモデルで電力を供給する準備ができたので、これで電力自由化は始まるのでしょうか?

答えはNoで、あと一つ大きな仕事が残っています。

それが、発電量と消費量の管理です。

 

よく言われていますが、電力は同時同量の原則に基づいています。

簡単にいうと発電しすぎ/消費しすぎの状況ではとっても困るのです。

少し専門的な用語を使いますと、周波数という概念が関わってきます。

 

東京電力の資料の「パワープールと周波数」というページで、電力全体をプール、周波数をプールの水位に喩え、非常にうまく説明しています。

水位が上下すると、水没or渇水になるので、水位を一定に保たなくてはいけません。

私が聞いた説明では、例えば東京電力管内の発電(タービン)を全て停止してから数分で、このプールは空っぽになるそうです。

 

そのため、発電する人と消費者に電力を提供する人からそれぞれの需給を聞いて、調整する人が必要です。

需給バランスの監視は新たに設立された電力広域的運営推進機関(OCCTO:オクト)が担うことになります。

 

電力自由化の準備は整った!

さて、電力価格の規制を解き、参入者を招くよう送電網を解放し、需給バランスを監視する機関を作ったので、電力自由化の準備は整いました。

しかし、これまで電力会社が責任をもって行っていたことに小さな業者が入ることで、新しい問題も発生します。

 

例えば冒頭の記事のように、もともと供給を約束していた業者が、ビジネスの観点から突然供給をやめるパターンです。

契約などでお金は賠償されるでしょうが、このままでは停電になってしまいます。

それを防ぐために、普通は最終供給保障者(last resort)というのが設定されており、普通は、従来の規制を受けていた電力会社(この場合は東京電力)が担います。

 

最後に電力自由化に対する私の感想ですが、短期的には電気料金は下がるかもしれませんが、これだけ大規模な緩和には相当な費用(純粋なハードの費用だけでなく、官僚や専門家の人件費など)がかかるはずで、強引すぎるような気がします。

米国では半分くらいの州で自由化がされていますが、もともと小規模電力が多数いるのと、越境(越州)での電力融通があり得るので、日本とはだいぶ状況は違います。

 

田中