In the Field

田中の体験や読んだ記事なんかを共有して、新しい何かが生まれるといいなあと思いながら書いています。普段はシンクタンクでエネルギー政策・事業なんかを考えたりしています。

エネルギー供給リスクを考える指標が検討されていた件。

エネルギー安全保障という考え方

今回はやや重いテーマを扱ってみます。

国外のエネルギー政策研究が私の専門ですが、その中で「エネルギー安全保障」に関する面白いレポートを取り上げてみます。 (下記のグラフは後で言及します)

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まず日本のエネルギー情勢についてですが、誰もが社会科で習ったように、1970年代のオイルショックの経験がこれまでの日本のエネルギー政策に大きな影響を与えています。

オイルショックは日本が石油の大部分を依存していた中東が、石油の供給価格を上昇または供給停止したことに伴うもので、急激なインフレ等をもたらしました。

この出来事を教訓に政府は、化石エネルギーの調達先の分散、エネルギー源の多様化として原子力(純国産のエネルギー源扱い)の導入拡大、省エネルギーの促進、石油備蓄の拡大などを図ってきました。

 

さて冒頭に紹介した「エネルギー安全保障」ですが、これはエネルギーを安定的に調達できる体制を構築している状態を、エネルギー安全保障体制を確保しているとか表現します。

安全保障(security)というのは、もともとは外交用語です。

安全保障は、各国がある程度単独で追求できる安全(safety)とは異なり、他国間の協調、国際的な枠組みが必要という考えが根底にあるため、「体制」という表現を好むようです。

 

ちなみにエネルギー安全保障体制の構築は、世界でも議論されていますが、特にシビアな議論がされているのは日本と韓国だと感じます。

両国は経済的な成熟度が高い割に、エネルギー自給率が低く、また電力融通などの他国とのエネルギーのシェアがしにくい孤立した地理的環境にあるからだと思っています。

 

エネルギー安全保障の定量指標

定義からして曖昧ですが、エネルギー安全保障を定量的に分析したものはこれまで私は見たことがありませんでした。

と思っていたら、総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会が2015年7月に、今後の総合的な資源・燃料政策の方向性を示すレポートを発表する中で、なかなか面白い指標を導入していました↓

「報告書」(タイトルなし)

http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shigen_nenryo/pdf/report02_01_00.pdf

 

同分科会の問題意識には、福島第一原子力発電所事故の影響があります。

上の方の、エネルギー安全保障の説明で紹介しましたが、原子力の拡大は国策として本気で取り組んできたものです。

そうして徐々に増やしてきた原子炉を一度に止めたことで、化石燃料の調達では相当の無理がきているのではと思います。

 

こうした問題意識を背景に、今後のエネルギー・燃料調達政策を考えるために、今回定量的な指標が導入された(使用してはいかが)ということのようです。

なお私的には、国のリソースを大量投入してきた原子力を全くやめるのはむしろ愚策で、使えるところまで資産・技術・制度を活用していくべきとは思いますが、本論とは外れるのでこれくらいで。

 

ハーシュマン・ハーフィンダール指数

話をエネルギー安全保障に戻します。

定量的な指標として、「報告書」の第四章 エネルギーリスク評価指標(セキュリティインデックス)で、ハーシュマン・ハーフィンダール指数(HHI)が利用されています。

HHIは、ある産業における企業の競争状態を表すもので、独占状態に近いほど数値が1に近づき、競争状態ほど0となります。

ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス - Wikipedia

従来は公正取引員会が企業の合併の是非を判断するために用いる指標とのことです。

 

今回は”ある産業”→ある国、企業→エネルギー、競争状態→分散状態が高い(リスクが分散している)と考えたようです。

式で表すと下記の通りです。

 

HHI=Σ{調達率**2 * リスク係数**2} 

 

例えば、中東から8割、ロシアから1割、その他が1割を輸入している石油のリスクについて考えると、単純なHHI=0.8**2+0.1**2+0.1**2=0.66となるが、調達先のリスク係数を設定して重み付けをすると、HHI=0.8**2(2**2)+0.1**2(1**2)+0.1**2(1**2)=2.58となります。

これを天然ガス、石炭についても行い、一次エネルギー供給率に応じてさらに重み付けをしたものを、ある国の「セキュリティ・インデックス」と呼んでいます。(原子力再生可能エネルギーはほぼ国産エネルギーなのでリスクを考えなていない模様。。)

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簡単にいうと、安定した地域群から分散的に、多様なエネルギー源を調達していれば、国のセキュリティ・インデックスの値は小さくなります。

 

福島第一原子力発電所事故の前後で比較すると

以上の結果を主要国で行った結果が、冒頭のグラフです。

事故以前から日本は最低水準で、事故後の化石燃料依存でさらに数値が増大していることがわかりますし、日本と同じような数値の国は韓国くらいで、僕の認識とも齟齬がないです。

 

息切れしたのでこの辺で止めますが、セキュリティ・インデックスはその算出方法からもわかるように、安全(原子力の安全性とか)を考えたものではありません。

このインデックスを使おうとする場合には、その点両陣営ともに注意が必要です。